介護保険エビデンスにおける真のエンドポイント(アウトカム)を測定する評価尺度
社会的自立支援に特化した介護サービスのアウトカム尺度
介護保険サービスは今日、ICFの考えに基づき、心身機能の維持向上のみならず、その人の人生の過ごし方のアセスメントを踏まえ「活動」と「参加」の支援をすることとされています。ところがこの活動と参加の支援について、適切なケアの評価尺度が存在しません。目下、介護度や日常生活自立度などの測定が行われていますが、加齢に伴う心身機能の低下は誰もが避けることが出来ない自然な現象であるにもかかわらず、これらをケアの成果の尺度と捉えてしまうと、「要介護状態を悪とする偏見を助長する(日本社会福祉士協会)」ことになってしまいます。
そこで私たちは自立支援ケア実践の立場より、あるべきアウトカムとは何か、昭和大学保健医療学部理学療法研究科と共に研究し、例え病気や障害があったとしても、あるいは余命がいくらもない終末期にある方も、その人の「活動」と「参加」の状態像と共に、介護度やADLの状態に関わらず、その方の生き抜く姿を「主体性」として尺度を定め、測定を可能とするアウトカムスケールの開発を行いました。
社会的自立支援アウトカム尺度(SIOS)の活用は、活動と参加、そして当該利用者の主体性の測定をすることだけでなく、アウトカムが明確になることで、スケールを導入するケア現場は「何を目指せばよいのか」が明確になり、目的的なケアを実践することが出来るようになります。また、利用者自身も「何のために介護サービスを活用すればよいのか」を理解し、提供者側と目的を共にし、双方目的的にサービスを活用するようになるので、効果的なケアを生み出す効果も期待されます。
特に通所系サービスは、本来例え要介護状態にあっても自分らしく最後まで自分の居場所で生き抜くための訓練等の援助を受けるための施設であることも知らず、漫然と施設に通い、体操とお風呂や食事の世話を受けながら、アクティビティサービスを通じて楽しく過ごすことが目的となってしまい、自立支援ケアとは程遠い状況です。また、無目的なサービス提供が今日の介護保険財源を苦しめる結果にも結び付いています。
私たちの願いは自立支援に効果的な目的的なケアが普及促進されることです。そのために社会的自立支援アウトカム尺度(SIOS)をご活用いただきたく、本ウェブサイトで広く無償で配布させていただきます。皆様の施設における自立支援ケアの実践の場において、是非ともご活用ください。
在宅療養支援 楓の風グループ
代表 小室 貴之
介護保険のエビデンス検証では、臨床試験での真のエンドポイントに相当する指標に関する合意は得られておらず、もっぱら「転倒発生率」や「筋力増強」等の代用エンドポイントが用いられています。「要介護度」も急性疾患後の反応性は高いですが、長期化事例では適切な指標に成り難く、介護保険の真のエンドポイントを提供する指標の構築は急務と考えます。
本件は「住み慣れた地域で自分らしい暮らしを可能な限り続ける」という地域包括ケアシステムの理念を真のエンドポイントとして定量化する尺度を提案します。この尺度は介護サービス提供によるアウトカムを国際生活機能分類(ICF)に準拠した「活動」と「参加」、それらを達成する基盤である「主体性」の3つの下位尺度で測定し、その信頼性と妥当性、エビデンスを検証済みです。本尺度は聴き取りと自記に対応した簡便な形式であり、介護保険の各種サービスの介入エビデンスを測定する新たなツールとなり得えます。
アウトカム評価はさまざまな分野で実施されます。アウトカムの定義も分野によりさまざまですが、年度の事業成果(実績)を数量的に指し示す評価結果は、プロダクト(product)あるいはアウトプット(output)と呼ばれることが一般的です。それに対して、アウトカム(outcome)は、事業成果がもたらした本質的な価値と定義されます。価値の測定は、受益者による主観的な評価に基づく測定が基本とされています。
表1 アウトカム評価の考え方 独立行政法人製品評価基盤機構
ケアサービスには、医学的ケア要素と社会的ケア要素が含まれますが、社会的ケア要素を対象としたケアサービスのアウトカム測定事例は、本邦では確認されていません。社会的ケア要素の影響を多分に含む「活動」「参加」の状況を評価指標として行動変容の状態を測定する手法は、地域包括ケアのビジョンとも合致しており、さらにそれらの指標が世界保健機関(WHO)によって2001年に採択された「国際生活機能分類(ICF)」に準拠している場合は、一定の説得力を有すると推測できます。社会的自立支援アウトカム尺度(SIOS)は「活動」「参加」をICFに準拠した形で定量的に評価する点に特徴があります。
さらに、慢性的な経過にある対象者や、健常状態が悪化する方向に向かう対象者では、介護サービスの質の高い介入があったとしても、心身機能の向上や介護度の軽減はもとより、「活動」や「参加」指標での向上を観察できない恐れがあります。しかし、質の高い働きかけが提供された結果、状態改善が見込めない対象者あっても、主体的に現状を改善させようとする意識の向上につながることは十分に考えられます。こうした側面を定量化するための下位尺度として、自己実現や問題解決に向けた知識の理解度や、それを実現する取り組みへの意欲などで構成される「エンパワーメント」を測定する下位尺度「主体性」を設定している点に社会的自立支援アウトカム尺度(SIOS)の特徴があります。「主体性」をアウトカムとして積極的に評価できる点は、他の指標にはない利点となります。
※各調査において、昭和大学保健医療学部倫理委員会の承認取得済。
通所介護・予防通所介護・通所リハビリテーション等
訪問リハビリテーション・予防訪問リハビリテーション・訪問看護による訪問リハビリ等
サービス付き高齢者向け住宅等
他