コロナ禍の中、2021年の介護報酬改正は予定通り行われることでしょう。
その方向性は「自立支援ケアの促進」であることは間違いなく、その起点は2017年の未来投資会議では総理の口より幾度となく「自立支援介護」と
その「成果を評価」することがビジョンとして語られ、我が国の介護サービスは「お世話型」から脱却し、「自立支援ケア」の実践と結果が求められるようになりました。
首相官邸WEB:https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201611/10mirai_toshi.html
そこで「自立」の概念を理解することが準備の第一歩となりますが、厚生労働省は「自立」の概念について次のように述べています。
介護保険における「自立」の概念については、ここにある3つのことが記載されております。1つは「介護等を要する者が、『尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行う』こと」、2点目が「介護保険の保険給付は、『要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう』行われなければならないこと」、3点目が「保険給付の内容及び水準は、『被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない』こと」が言われています。2番目の「自立」の概念につきましてなのですが、どういった観点に着目するかによって、さまざまな捉え方があると思っております。例えば、ここに例を挙げさせていただいておりますのは、世界保健機構(WHO)の国際生活機能分類、いわゆる「ICF」と言われているものですが、これにつきましては、生活機能と障害を「心身機能・身体構造」というものと「活動・参加」に分類しておりまして、高齢者のリハビリテーションにおいて、この考え方に基づき、自立に向けたアプローチを行っているということになっております。
引用:2017年8月23日 第145回社会保障審議会介護給付費分科会議事録
このように自立支援ケアはICFに基づく実践が求められており、通所介護事業においては2015年介護報酬改正時に一歩早くICFに準拠した「自立支援ケア」の在り方が示され、それに基づいた機能の充実が必須となりました(図参照)。
もはや通所介護業界においてはお馴染みの本図ですが、「通所介護において充実を図る機能」としたうえで「心身機能の維持向上」「活動の維持向上」「社会参加の促進」の3つをもって「生活機能の維持・向上」への取り組みを求めています。具体的には個別機能訓練加算Ⅰ及び個別機能訓練加算Ⅱを通じてあるべき体制と方法について定められ、前改正時に加算額が増額されることで、国の期待の強さが表現されました。
しかし現場では個別機能訓練加算の算定基準等はなんとなく理解していても、実践、定着に結びつけることが難しいとの声も聞こえてきます。最も多いのが、個別機能訓練加算ⅠとⅡの違いを明らかにできず、両加算の目標がいずれも心身機能の維持向上に終始してしまう症状です。例えばⅠの目標に「足腰を丈夫にする」と定め、Ⅱでは「100m歩けるようになる」としてしまい、いずれも心身機能の向上を目標にしてしまうような場合です。個別機能訓練加算Ⅱの目標においては具体的な生活機能の維持向上を目指すことが求められるので、「100m歩けるようになる」という目標の理由まで明らかにする必要があります。例えば「50m先のポストに手紙を投函し、安全に帰ってこられるようになる」などと、何のために100m歩けるようになる必要になるのかを具体的な作戦として目標を定める必要があるのです。他、以下事例で自立支援ケアと機能訓練の在り方について考えてみましょう。
脳梗塞後遺症がある男性が、左半身に麻痺を患い、歩くのもままならず、ベッド上と時折車いすで過ごし、介護認定も要介護3が判定されていました。老人保健施設にリハ入所、訓練へのモチベーションは低いままで、セラピストに励まされ時にはわずかに笑顔を見せるも、表情は曇ったままの日が続いていたそうです。
いよいよ在宅復帰へ。私たちの通所施設が紹介され、退所することに。早速アセスメントを開始してみると、この男性は訓練時間以外、ソファやベッドで横になるばかりの日が続いていたようです。そして病に倒れる前は奥様を大切にする、妻想いの素敵な方であることが見えてきました。「すてきな旦那様ですね」と、本人に寄り添う妻に声をかけると、本人は照れくさそうな表情を見せるのです。
しかし、照れくさそうに妻と目を合わせた後、泣き始めたのです。理由を伺うと、「僕は障害がつらいのではない。大切な女房に、迷惑をかけていることが何よりもつらい」とおっしゃるのです。妻を愛し大切にしていた優しい夫は、障害によって夫としての役割が果たせずに苦しんでいたのです。そこで「歩けるようになったら何をしたいか」ではなく、「どうすれば夫として活躍出来るだろうか」と考え、理学療法士中心とした多職種連携と、主役である本人とで話し合い、どんな身近に挑戦できる「妻のためにする」ことがあるだろうかと考え、週一回、妻のためにランチを振る舞うことを目標に定めました。本人はかつて週末になると家族のために男料理をふるまっていたとの事。そのような夫がもう一度「家族のために活躍する」ことを目指し、しかし立位保持は事実上困難なため、車いすに座り、食卓で料理をつくることを目指すことになったのです。
そのためまず、長時間の座位保持を可能とするための訓練が始まりました。また、身体機能の維持向上を行いつつ、その後ホットプレートを用いて片手で料理をする訓練を行い、2ヶ月後、いよいよ妻に振る舞う日がやってきました。メニューはシンプルな焼きそば。3食入りパックを片手と口で器用にやぶき、補助具を用いてキャベツを刻み、ホットプレートで炒め、40分かけてようやく「妻のための」焼きそばが完成。皿に盛りつけ、照れくさそうにテーブルに座る妻に差し出した時、彼と妻の目には涙があふれていました。
その後も残存機能と回復の可能性を踏まえ、夫として妻のために挑戦できる目標を見出して訓練を続けているこの利用者は、ゆっくりと器用に車いすを操り、その身体で妻のために愛情を注ぐ、自立した夫を発揮し続けています。身体機能の回復には限界はありますが、夫としての役割を発揮する機会はまだまだ挑戦できる可能性があり、本人も一つずつ増える家庭での役割、夫としての役割を通じ、より主体的に生きる希望を見出し、笑顔あふれる日々を送っています。
参照:株式会社楓の風 自立支援ケア実践者開発養成講座 資料
いかがでしょうか。人は役割を通じて主体性を発揮でき、充実した人生とはそれら役割における強い役割感を通じて得ること が出来るのではないでしょうか。尚、「役割をもって生活できるような居場所と出番づくりを支援する、家庭内の役割づくりを支援する」として役割の獲得を支援する考えは「高齢者のリハビリテーションのイメージ」(図参照)においても示されています。
参照:介護給付費分科会、中央社会保険医療協議会他資料より引用
また中重度の利用者を中心に、活動と参加のイメージが難しいとされる課題もあります。これまでの高齢者のリハビリテーションのイメージそのものが、まずは「体を元気にしなければ始まらない」といったパラダイムがあるのでしょう。前図の「リハビリテーションの展開と3つのアプローチ」においても、まずは心身機能へのアプローチが前提になっているようにも見える段階式で示されているため、その誤解は生じやすいものと考えます。この段階がパラダイムとなり、回復が見込めない中重度者においては「心身機能の回復が困難」と見立てれば、活動と参加の目標などそもそも思いつかなくなってしまうのかもしれません。
このように、私たち通所介護事業者は単なる意識改革や制度改正対応策を行うのではなく、どうやらケアの原点より「心身機能の維持向上」「活動の維持向上」「社会参加の促進」の三つをもって「生活機能の維持向上」を支援する専門ケア機関としての自覚と基礎から構造改革が必要な時が訪れたのではないでしょうか。私たち通所介護事業者における自立支援ケア、すなわち「活動と参加の支援」とは、例え病や障害があろうとも、残存機能やその回復を見極めたうえで、いかに主体性を発揮できる場、役割を獲得できるかの支援を行うことと捉えることが出来るのです。
さて、いよいよ自立支援を行おうと考えたとき、PDCAサイクルの第一歩はアセスメントです。しかし困ったことに、殆どの通所介護従事者がお世話をすることには長けていても、残存機能を見極め、多職種で多様な視点から話し合い、戦略的に自立支援ケアを行う実践的な教育を受けていないため、様々な訓練機器を用いて機能訓練を実施すればある程度の身体機能の回復が見込めることは知っていても、「人生の過ごし方」まで踏まえた支援について取り組む機会があったとは言い難く、計画策定の前提となるアセスメントそのものが「何にお困りなのか」という視点、すなわち問題点や課題点の調査に終始してしまうという課題を有しています。
例えば90歳代の要介護5の利用者を目の前にしたとき、自分で食事や排せつ、移動が困難で、常時誰かが介護が必要であるという課題点は見いだせますが、その人が「社会参加の促進」をと考えると、「車いすに乗ってデイサービスに通う」程度しか思いつかないことが多いでしょう。このような場合、アセスメントにおける生活歴を覗いてみると、およそ次のようなレベルのものしか書いてありません。弊社で今年度から実施している自立支援ケア実践者開発養成講座受講生の実際のアセスメントから見てみましょう。
参照:楓の風自立支援ケア実践者開発養成講座受講生受講初期アセスメントより
いかがでしょうか。家族の介護負担を軽減させるために本人をデイサービスに通わせることは間違いではありませんが、あるべきは通所介護を利用して役割を見出す支援を行うのが専門ケアとしての通所介護なので、このようなレベルのアセスメントでは「人生の過ごし方」の視点をもったケアに結びつくような情報にはならないのです。言葉は悪いですが、この程度の情報すらスタッフ間で共有されていない事業所も少なくはないはずです。これまでどのような人生を歩まれてきたのか、そして今、病や障害を有する中で、どうすれば活躍できる役割を見出してご自分らしく過ごしていただけるようご支援できるか、この視点を磨くために、PDCAの第一歩として利用者をエンパワメントすることを前提としたアセスメントが行えるよう教育を施すことが必要なのです。参考までに、教育を施すと次のようなアセスメントが行われるようになってきます。同じく弊社主催同講座の他の受講生の教育後のアセスメントをみてみましょう。
参照:楓の風自立支援ケア実践者開発養成講座受講生受講初期アセスメントより
いかがでしょうか。まだまだ不十分ではありますが、利用者の人生を短くも豊かに捉えていることがわかりますし、スタッフたちはこの情報共有後、本人への寄り添い方にも変化が起きてきたようです。このケースはさらにアセスメントを積み重ね、人生の過ごし方のヒントを得るのです。
参照:楓の風自立支援ケア実践者開発養成講座受講生受講初期アセスメントより
このケースはこのアセスメントから「友人の力を借りてシネマに行く」ことを目標として導き出し、その実現のために歩行訓練や筋力、体力をつける訓練を行い、また重要な社会資源である「友人」との調整も図りながら目標達成の時のために準備を着々と進めています。また、この事業所ではこのような「人生の過ごし方」を支える取り組みを基礎であるアセスメントから学ぶことで、スタッフたちが目的をもってケアに取り組めるようになったことはもちろん、そのようなケアを行うことにプロとしての自覚と誇りを抱くようになったのが大きな成果であると感想を述べています。私たちが何のための専門職なのかを理解して行動できることは、職員の動機付けそのものにも好影響を及ぼすのです。
そこで自立支援ケアに誇りをもって取り組める職員教育、チーム作りが必要となります。前述の通りこれまでの教育の多くが「問題解決思考」の養成であったために、問題点の主要素である「出来ていたことが出来なくなってしまった阻害要因」との対峙に終始してしまいます。しかし要介護高齢者の多くが「解決困難な阻害要因」が非常に多く、解決よりも先に最期を迎えてしまうこともあります。そもそも人は必ず死を迎えます。よって時には解決を目指すことそのものが、残された大切な人生の時間を訓練によって奪いかねない恐れすらあるのです。
よって、問題解決の視点に終始することなく「人柄やなり」を踏まえつつ、これまでの人生の過ごし方、そして残存機能やあらゆる社会資源の情報をあつめて善き提案、すなわち役割を通じて主体性を発揮する支援が必要であり、「歩けるようになってから」などとのんびりした考えではなく、病気や障害を有していても、その姿で何ができるのかを考えることが出来るようになるスタッフの養成が求められるのです。
通所介護は四つの職種の配置を義務づけられています。ご存じの通り生活相談員、機能訓練指導員、介護職員(体制強化加算の導き通り介護福祉士保持者が望ましい)、看護職員の四職種です。この四職種がそれぞれの立場と役割を理解し、円卓に自立支援ケアの目的を共有してチームで取り組む習慣を身に付けさせることが重要なのです(図参照)。
図:個別機能訓練加算Ⅱ(活動と参加の推進)における専門職の役割と視点・IPW
図ではそれぞれの職種の役割についても言及していますので参考にして下さい。特に機能訓練指導員の思考は心身機能の維持向上を前提とした従前のボトムアップ(医学モデルアプローチ)に捉われる事なく、今、すぐにでも活躍できる役割はないかを考え、そのための優先すべき訓練は何かを考えるトップダウン(生活モデルアプローチ)で思考できる教育が必要です。また、トップダウンで思考する目標や訓練を見出すためには「人生の過ごし方」に関する情報が重要であり、それぞれの職種の立場より豊かな情報を見出すアセスメントが肝要となってきます。アセスメントに基づき、これらの職種がそれぞれの役割、立場より相互に意見を出し合い、個別機能訓練加算Ⅱを通じて自立支援に資するケアを提供していただきたいと考えます。
さて、これまで前提条件として自立支援ケアに取り組むべきで、特に個別機能訓練加算Ⅱを通じて実践することの意義について述べてきました。これらは決して理想論ではなく、各職種が目的を持って働くことへと導くため、持続的に共創しあうチームを作りあげるための基礎です。このようなチームは専門性を発揮したいと考える質の高い職員の誘致にも結び付きます。そしてケアの成果を通じて利用者満足度の向上やケアマネージャーをはじめとする関連機関の信頼獲得にもつながり、持続的な集客構造を構築します。これらは事業所の差別化や特徴づけではなく、本質を理解し磨く作業であるため、一時の生き残り作戦ではなく、持続可能な事業所運営の礎となるのです。
すると他の事業所よりも「効果的な機器」を導入して特徴づけを試みたり、古くなった施設を美しく改装したりするなど、差別化に明け暮れる必要がなくなりますので必要最小限の設備を投じ、設備の寿命範囲で十分に末永く活かすことが出来るようになります。また、既に投じている資源の見直しも必要で、例えば機能訓練室の床面積において施設基準上一人3㎡とされているところ、カラオケ専用の部屋やわざわざTVを見るためだけのソファコーナーなどを設け、3㎡以上の空間を提供しているような場合は見直しを検討すべきでしょう。広い空間に様々な「コーナー」を設ければ、利用者はちらばり、各「コーナー」ごとのマネジメントを行うことが必要となり、結果的に人的投資でカバーする必要が出てくるので、厳しい介護報酬の中で人件費がさらに経営を圧迫しきます。利用者に快適に楽しくすごしてもらおうというという発想は、飽きさせないようにするため常に新たな投資が必要となります。よって本質を磨き、「飽き」に結びつくような余計なことに投資をすることを最小限に留めることがポイントとなってくるのです。
なお、差別化から見出した様々な「高齢者を楽しませる」目的の行いに対し、貴重な介護保険財源を使うことへの疑問が財務省より投げかけられていることにも留意しなくてはなりません。従来のデイサービスに見受けられたやり方への批判は強まる一方です。また、介護度に関わらず一律に7時間以上のサービスを提供する必要性についても疑問の声が上がっています。人、モノ、時間の投資について、通所介護事業所運営のパラダイムを見直さなければならない時代が訪れていると考えるべきでしょう。
次期改正において、ICTやロボットの導入により加算を付与する方針が示されています。この方針の目的は言うまでもなく業務効率の向上です。ICTは情報共有や記録に要する時間と手間の効率化であり、ロボットは職員が腰を壊さずに持続的にケアに従事し、人材の寿命を延ばすことで、高まる採用リスクの根本的要因である離職の抑制を行うことが目的です。これらは言うまでもなく導入し、使いこなし、日常業務のスタンダードとして定着させる必要があります。
弊社ではカナミックネットワーク社のクラウド電子カルテシステムと、独自に開発したアセスメント、情報共有、アウトカム評価をマネジメントする「颯(そう)システム」を組み合わせて導入し、スタッフたちは施設内外で端末(iPad)を用いてほぼペーパーレスにて業務を完遂し(図参照)、平均残業時間をかつての平均30時間程を、13時間ほどに抑制することに成功、ICT投資による成果を見出しております。
お世話型の典型としてあげられるのが各種行事の開催やつねに新しさを考え続けるアクティビティと称した各種ゲーム、折り紙等を用いた室内の装飾等が考えられます。これらは本当に「自立支援」に資するのかどうかを考えなければなりません。弊社ではアセスメントにより把握された必要な生活支援は適切に支援しながら、自立支援を目的とする機能訓練加算のプログラムに注力し、ゲームや合唱といったお遊戯プログラム等は一切行っておりません。また一般的なクリスマス会やお花見などは一切行っておりません。利用者がお花見に行きたいのであれば、利用者の生活環境をしっかりアセスメントし、家族やボランティアの力を借りながら、自分でお花見に行けるよう支援します。結果、装飾にかかる材料費や、行事の準備に要する残業代などの割増賃金などのコストは発生しません。そもそも、折り紙で作った草花が咲き乱れるガラス窓を見て、いったい誰が喜ぶのでしょうか。高齢者の尊厳とは何かを再確認しながら、自立支援ケアの実践という目的を理解共有し、目的的な業務の実践に集中することで、一切の無駄の排除を実現し、適正な利益の確保が可能となるのです。
目下最新の議論では、成果を出した事業者への評価、いわゆるアウトカム評価加算の強化が検討されています。2018年改正でまずADLの改善に対する評価報酬が導入されました。現在は介護度の改善にインセンティブを付与する意見が自治体独自の取り組み等も始まっておりますが、「『居宅サービスの利用者は様々なサービスを組み合わせて利用している場合が多く、要介護度や 自立度等の指標が改善したとしても、提供される介護サービスの中のどのサービスが効果的で あったかの判断が困難であること』『事業者がアウトカムの改善が見込まれる高齢者を選別する等、いわゆるクリームスキミングが起こる可能性があること』 」を課題点として捉えており、具体的なアウトカム加算拡大までにはさらに議論が繰り返されることでしょう。議論の行方に関心を持ち、事業者に求められる成果を意識し、まずは自立支援ケア実践の準備を整えることが今できる対策と言えましょう。
尚、弊社では昭和大学保健医療学部との連携により、独自のアウトカムスケール「SIOS」にて、活動と参加、そしてそれに取り組む利用者の主体性を測定し、介護度の維持改善と共に、定量的にケアの評価を実施しています。アウトカム加算がどのようなポリシーで設置されるかは不明ですが、少なくとも活動と参加の促進に取り組むことは示されており、それらに準拠した成果の測定を行うことは将来のアウトカム加算導入への準備と捉え、取り組んでいるところです。
さらに付け加えるならば、高齢者本人の意思を置き去りにしない、適切なアセスメント(アウトカムを把握したうえで)が前提となってくるはずです。このあたり私たち楓の風のモデルが最も大切にし、アウトカムスケールSIOSを評価と併せてアセスメントツールとして応用することで取り組んでいます。この方向性は先月国に提出された2019年度老人保健健康増進事業『ケアマネジメントの公正中立性を確保するための取組や質に関する指標のあり方に関する調査研究報告書』にアウトカムスケールSIOSの紹介を通じてしっかり示されました。何をもって介護の質とするか、近年の議論の集大成ともいえる報告書に仕上がっており、19章より「ケアマネジメントの質の指標の提案」として具体的に示すまで至っています。
本報告書を読んでいただくと「どのようなビジネスモデルがいいのか」「どのようなプログラムがいいのか」という発想よりも「スタッフたちが何を目指してケアを遂行すべきか」という段階から取り組まなければならないことに気が付くことでしょう。もはやビジネスモデルで乗り越えることは出来ず、自立支援を理解した上での目的的なケアの遂行が出来るよう、しっかりスタッフを養成していかなければならないのです。
同時に生産性向上にも取り組まなければなりません。こちらも国から良いガイドラインが示されました。楓の風のデイサービス施設で行った取り組みも紹介されておりますので、是非ご一読ください。次期改正対策は自立支援を遂行できる目的的なケアを実践できるスタッフ作りと生産性向上につながる環境整備、この2つが鍵といえましょう。
●2019年度老人保健健康増進事業『ケアマネジメントの公正中立性を確保するための取組や質に関する指標のあり方に関する調査研究報告書』
https://www.ihep.jp/publications/report/elderly_search.php
※楓の風が取り組むアウトカムスケールSIOSが164ページ以降、「ケアマネジメントの質の指標の提案」における「利用者のアウトカム」にて取り上げられています。
●介護サービス事業における 生産性向上に資する ガイドライン(改訂版)介護の価値向上につながる 職場の作り方
https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000622810.pdf
※事例62に弊社デイサービスの取り組み事例が掲載されています。
総合事業の動向を踏まえれば、今後軽度者はますます総合事業での対応範囲となり、その報酬を鑑みれば長時間預かることは既に現実的な事業活動とは言えないことに気づきます。一定の預かりニーズの存在は否定しませんが、それならば積極的に区分変更申請の利用を通じて適正な介護度の認定を得るべきでしょう。要介護1は既に不安定な状態や認知機能の低下に該当しなければ要支援2の判定とされています。つまり介護給付における通所介護事業の利用対象者は事実上要介護2以上の利用者とも言えるのです。
そして真のアウトカムは人生最期の時に病院に送るのではなく、自宅などの自分の居場所において最期まで自分らしく生き抜くことを支援することです。そのための期待は前改正において中重度者ケア体制加算の新設にて示されました。具体的には必要な職員を配置し、要介護3以上の利用者の割合が30%以上占めることで算定可能となる加算です。認知症ケア加算も然りです。よって要介護2以上を主要なターゲットとして集客し、それらにふさわしいケアを実践、成果を上げ、事業者としての生き残りを図ることが求められます。
尚、要介護2以上はそれなりの介護を必要とされるため、必要に応じた預かりニーズがあることは否定されず、一日滞在タイプの事業所運営は必要な訓練(自立支援に資する)を行うことを前提条件に介護報酬上否定されるような評価を受けることはないでしょう。ぜひ積極的に中重度利用者への対応に励んでいただきたいと思います。
事業所として制度に必要とされ、生き残るためには制度の期待である加算算定をできる限り行える体制を整え、取組を行うことは既知の通りです。重要なのは、加算算定がICFに準拠した活動と参加を促進する機能訓練を求め、もって自立支援ケアの実践者となることを期待してのものであることを理解することです。よって従来の通所介護事業所運営のパラダイムから早急に脱し、自立支援ケアの実践者を基礎から養成し、通所介護四職種の多職種連携による活動と参加の促進を支援する専門ケア機関としての能力を有することが、来る制度改正への準備と言えましょう。
小手先の投資で乗り越える時代は終焉を迎えました。ケアの本質を磨き、職員が目的的に効率よく業務に励み、そして結果を見出し、もって職員や集客の絶え間なきエンゲージメントを築き上げることを願うばかりです。リハビリテーション颯フランチャイズ(コムラードシステム)は、加盟施設への適切な事業運営モデルの提供と共に、あるべきケアの本質を指導し続け、スタッフの技術向上と共に、皆様の施設が制度に求められ続ける施設として持続可能な運営を応援するシステムです。